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最高裁判所第三小法廷 平成4年(あ)858号 決定

主文

本件上告を棄却する。

当審における未決勾留日数中三三〇日を本刑に算入する。

理由

弁護人野島正の上告趣旨につき、以下に判断する。通訳の正確性に関し判例違反をいう点は、原判決の認定しない事実を前提とする判例違反の主張である。第一審の判決書謄本の送達に関し違憲をいう点は、公判廷における判決の宣告のほかに判決書謄本の送達を要することとするか否かは専ら立法政策の問題であって憲法適否の問題ではない。起訴状謄本の送達の際に翻訳文の添付がなく防御権の保障に欠けていたとして違憲をいう点は、記録によれば、本件訴訟手続において外国人である被告人の防御権の保障に欠けるところはなかったものと認められる。捜査段階において、被告人の弁護人選任権が侵害され、また、暴行、虐待を受けたとして違憲をいう点は、記録を調査しても、右事実をうかがわせる証跡はない。したがって、以上の所論はいずれも前提を欠き、その余は、違憲をいう点を含め、実質は事実誤認、単なる法令違反、量刑不当の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。

なお、平成二年法律第三三号による改正前の麻薬取締法六四条二項にいう「営利の目的」には、同法の立法趣旨及び同条項の文理に照らし、外国でジアセチルモルヒネ等の麻薬を売却して財産上の利益を得ることを目的とする場合も含まれると解するのが相当である。したがって、アメリカ合衆国で売却して利益を得る目的で、ジアセチルモルヒネの塩類をタイ王国からいったん本邦に輸入した被告人の所為について、同条項を適用した第一審判決を是認した原判決は、正当である。

よって、刑訴法四一四条、三八六条一項三号、一八一条一項ただし書、刑法二一条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官園部逸夫 裁判官佐藤庄市郎 裁判官可部恒雄 裁判官大野正男 裁判官千種秀夫)

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